終わりにしよう
ああもう、なにもかもいやになった。
私はコントローラーを放り投げた。
「ちょっとゲームがうまく行かなかったぐらいで大げさすぎない?」
テレビ画面を指差しながら、呆れたように君が言った。
そこには画面の真ん中に大きく映されたGameOverの文字と、その下に座り込んで目を回すゲームの主人公の姿があった。
その姿にさえイラついて、私は指差す君の指を反射的につかもうとした。
……それは簡単に避けられたが。
「なんで避けるの」
「指を反対方向に折られそうな気がして」
こんなときだけ勘の良い男だ。
私は舌打ちをした。
「……なに、今日特別機嫌悪いじゃん」
君はただでさえ細い目をさらに細めて、怪訝そうな目で私を見る。
確かにいつもならこんなことでコントローラーを投げ出したりしない。
私は負けず嫌いだから、ちょっとぐらい悪態はつくがすぐにリトライし、クリアまで粘る。
でも今日はそんな気にならない。
「どれ、おにいさんが話をきいてあげよう」
「3ヶ月しか誕生日違わないでしょ」
「でも俺らたった二人の同期なんだし、なにかあれば助け合わないと」
そういって君は笑った。
ただでさえ細い目をさらに細めたうえで口角まであげると君は本当にうさんくさい顔になる。
なにか企んでいるような表情にしか見えないので職場でもたまに怯えられている。
本人はそれによく落ち込んでいて、その場面に遭遇する度に私たちの課長が君をなぐさめていて……
「……結婚するんだって」
「ん?」
「課長」
「……あー…」
納得したように君は私から少し視線をずらす。
「さすがにもう、諦めないとダメでしょ」
私は、その課長が好きだった。
彼女がいることも知ってたし、課長が彼女のことを好きでたまらないことも知っていた。
世間話で彼女の話をする課長はとても幸せそうで。
分かっていたけど、想うことを止められなかった。
目の前がじわりと滲む。
すぐにそれは雫となって私の頬を濡らす。
「ごめ、すぐ泣き止むから」
ぐしぐしと手の甲で拭うが、それは次から次へと落ちていく。
「いいよ、涙と一緒に流してしまえ」
そう言って君は私の両腕をとり、手の甲で涙を拭えないようにした。
さよなら、さよなら、私の片思い。
7/15/2024, 1:54:30 PM