酸素不足

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『柔らかい雨』


雨が降っていた。
しっとりと肌を濡らすような霧雨だった。サアサアと降る雨は、止む気配も強まる気配も無く、だだ優しく降り注いでいる。
土砂降りであったのなら、俺の心のようだと自嘲できたのに。どこまでも優しい雨に、どうしようもなく涙が溢れた。

カンカンカンカンと警報音が鳴り、遮断機が下りてくる。その動作が、ひどくゆっくりに見えた。
のろのろと遮断機をくぐり、線路上に立つ。遠くから強い光が近づいて来る。その眩しさに思わず目を細めつつ、やって来る電車を見る。


だんだんと電車が近づいて来る。
これからくるであろう衝撃や痛みに、不思議と恐怖は感じなかった。何も感じず、ひたすらに優しい雨に肌を濡らされながら、その時を待っていた。


電車が大きな音を出しながら目の前までやって来る。
そっと瞼を閉じた。



ああ、なんだ。走馬灯なんてものは見えやしないじゃないか。

11/6/2024, 1:53:09 PM