"物語の始まり"
図書委員の活動で、朝活の時間に下級生への読み聞かせをする、というものがあった。
籤引きでペアになった相手と二人で、図書室から自由に選んだ本を持って担当の教室に行き、読み聞かせを行う。一回行けばノルマは達成できるとのことで、早々に終わらせてしまうつもりで予定を組んでいた。
朝活の、それも教師が不在の時間帯という若干の不安要素はあれど、まぁ二人いたらなんとか時間は潰せるか、と気楽に考えていたのだけれど。
当日、ペアの相手は欠席した。
一人で、朝の雑然とした見知らぬ教室に乗り込むのは流石に勇気が必要だった。
小さい子相手の読み聞かせのコツは、話に巻き込む事だと思う。一方的に淡々と読むだけだと、途中で飽きた子が騒ぎ出したり脱走したりするんだよね。
簡単な質問でいいから、とにかく考えさせる。
漠然と全体に問いかけるのではなく、答える相手を一人ひとり指名した方がいい。
なんとか脱走者を出すことなくやり過ごし、教師が入って来た時、心底ホッとした。
これで漸く終われる、と。
後は適当な所で話を切り上げてしまおうと、そう思っていたのに。
気にせず続けて下さい、と。
何故かわざわざ教室の後ろに椅子を運び、教え子と一緒に聞く体勢になった教師を見て、呆然とした。
更に何故か、
子供達も楽しんでいたようだし、その本を最後まで読み終えるまでしばらく読み聞かせに来てくれないかと頼まれて、絶望した。
持参した本は、子供向けにアレンジされた童話集。
一番はじめに、物語の始まりを告げる掛け合いの言葉を教えた。
"クリック?"
"クラック!"
最後あたりは半ばヤケになっていたのだけれど、回を重ねる毎に応える声が揃っていくのは、なんだか擽ったかった覚えがある。
4/18/2025, 4:55:46 PM