紅子

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『また会いましょう』


私は2回目のない女だ。


友達に

「彼女募集中の人がいるんだけど、会ってみない?」

と言われて紹介され、二人きりで一度は会うも…二度目がない。


私はまた会ってもいいかもと思ったとしよう。

すると相手はそうでもないらしく、

「また会いましょう」

なんて言葉を真に受けて

「次はどうします?」

なんてメールを送ろうもんなら

「今ちょっと仕事が忙しくて。落ち着いたらまた連絡します。」

と月並みな断わり文句をもらってフェードアウト。

20代前半で何度も落ち込む事になった私は出会に消極的になり、29歳の今に至る。


「ああ、またか…」と傷つきたくないのだ。


それでもあと数ヶ月で30代の仲間入りを果たすのかと思うと、このまま独りでいてもいいのだろうか?と漠然とした不安に襲われる夜もある。


「そろそろ結婚相談所とか、そういうのに登録した方がいいのかなぁ…。」


「マジでっ!?」


私の発言に横の席に座る元同期の飯野がひっくり返した様な声を発した。


飯野は同期入社で同い年。


3年前に転職して今は同僚ではないけれど、同期でなんとなく気があって、今でもたまに飲みに行く仲だ。


飯野は二度目のない私とは違い、おモテになる。


彼女と別れたと聞いて数ヶ月後に会うともう彼女が出来てたりする。


二度目どころか何度でもある側の人。


恋愛に関しては全く対極なのになぜか気があう不思議な存在だ。


「私も適齢期ってヤツだよなぁと思って…でも分かってるの!そーゆうのに登録したところで、また二度目なんてなくて凹む事くらい。」


ビールのジョッキをダンッとテーブルに置いて、嘆く。


言っておくけど、普段の私はこんな絡み酒ではない。


数ヶ月で30という事実を目の前に平常心を保てていないのだ。


「あー…逢坂が『また会いましょう』って言われても次の約束がないってやつ?」


「そう、それー。でも果敢に挑んでいくしかないのかなー…。」


「……。」


そんな事をボヤきながら今日の二人の飲み会はお開きとなる。



「じゃあ、おやすみ。」


帰る方向が違う為居酒屋の前で飯野に向かって軽く手を挙げ別れの挨拶をした。


「おう、またな。」


飯野も手を挙げたのを見て、私帰り道の方へと体の向きを変えた。


分厚いコートを着てきて良かった。


今日は冷える。


私の30の誕生日の頃には雪も積もっているだろうか…。

「逢坂!」

そんな事を考えていたら背後で飯野に呼ばれた。


「ん?」

まだ何か用があったのか?


「俺は?…もう何年も『またな』って言ってるけど、二度目どころか何度も会ってるだろ?」


「へ?」


「次は彼氏、彼女としてまた会おう。」


何を言っているのか私が理解出来ないうちに飯野は呆然と立ちすくむ私の側まで来て、私の背中に腕を回すと耳元でそう囁いた。

11/14/2023, 11:44:59 AM