NoName

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雨に佇む、その煙草屋の前。
一人の男が、座ってタバコを吸っていた。
僕は、傘をたたみながら、
(何だこの男は……)
と思った。
煙草を買うために立ち寄った店であるが、軒下に喫煙所が併設されていて、雨が降り込まないようになっている。
悠長なことを言うと、正直目も合わせたくなかったし、話しかけられたくもなかった。
「おい」
なんだよ。おい、って。見ず知らずの人に話しかけるような言葉か?
男は、上はネルのシャツを着ており、下は長いパンツ姿で、見るからに世捨て人といったなりをしていた。
「お兄さん、何吸うの?」
「キャスターっス」
「最近の若いのは、弱いの吸うね」
と、男は紫煙をくゆらせている。
何の益体もない会話だ。と思った。
僕は、これから、ショッピングモールで、買い物をしなくてはならないのに。
「そう」
と、何ともなしに呟く男。
「時代も変わった」
そうして男は去っていった。
煙の匂いは、タールとニコチンの重い洋酒かかった臭い味がした。

8/27/2023, 10:12:31 AM