ホシツキ@フィクション

Open App

昭和の○○特集、といった番組を両親が観ていた。
「ああ!これあったあった!」
という父親に対して母親は
「そうなんだ!」というふうに相槌を打つ。

私の両親は仲がいい、というのもまだ新婚なのだ。

私は父親の連れ子であり、母親は平成初期生まれの29歳。
私は20歳なので彼女のことは母親と言うよりお姉ちゃんのようだった。
なので私は再婚してから新しい母親のことを「マリちゃん」
と呼んでいる。

歳が離れていて若いからか、父親は母親にべったりだ。
同じ家の中にいても自分の視界に母親がいないと
どこにいるのか気になってるようでソワソワしている。

娘的には両親の仲がいいことは良い事なのだが、父親の“男”
という姿を見るのは何だか気持ちが悪い。

『お母さんの時はそんなことなかったな。』

私は“産んでくれた”母親のことを思い出す。

お母さんは保育園のお迎えや保育参観などはいつも見に来てくれた。
仕事人間の父親は1度も来たことは無い。
保育園の運動会などもお母さんが一人で来て、ビデオを回しながら私に声援を送っていた。
私はそれが嬉しくて嬉しくて、一生懸命走っていた。

お母さんが作ってくれたお弁当を食べて、帰りは一緒に歌を歌いながら手を繋いで帰った。

お母さんはとても聡明で優しく、料理上手でいつも笑顔だった。

―――他に好きな人が出来るまでは――。

お母さんは職場の上司のことを好きになってしまったのか、
家庭のことを疎かにし始めていた。綺麗だった部屋は少しずつゴミが溜まり、料理もインスタントが増えた。
父親との会話も激減し、いつしか寝室も別の部屋になった。
私に対してもそっけなく、保育園のお迎えは夜まで来なくて
いつのまにか父親が毎日来るようになった。

そしてある日、離婚届と手紙と通帳を置いて急にいなくなった。

今思うと遠い過去のことだが、私にとっては優しかったお母さんがとても懐かしく、恋しく思う時がある。

でもお母さんにとって私は過去の人であり、他人である。
それは私にとってもそうで、お母さんの姿は若くて綺麗なお母さんのままで止まっている。

『お母さんは私のことを、私と過ごした日々を懐かしく思うことはあるのかな。』

私は少し切なくなった。

――新しい母親はそんな私に気づいたのか、こっちを見ると
おいでおいで、というふうに手招きしてきた。

私はされるがままに母親の元へ行くと、ソファーから母親が立って私を抱きしめた。

「マリちゃん…?」
戸惑いながらそう言うと、母親はさらに力を強める。そして
「だーいじょうぶ!」
と明るく言ってきた。
きっと私の表情を見て何かを察したのだろう。
私は嬉しくて恥ずかしくて戸惑って、感情がふわふわした。
思わずぽろり、と涙が頬を伝う。


このことを私はこの先いつか思い出すのだろうか。

血が繋がっていなくとも通じた心。

久しぶりに感じた母親の温かさ。

今より未来に、今日という日を温かい気持ちで懐かしむ日が来るという確信。

「マリちゃ……お母さんっ!」
母親もそうであったらいいな、と思いながら、私は母親の腕の中で笑顔になった。

「ほら!一緒に見よ!」
母親は私をソファーに座らせてテレビを指さす。
何が起こったのかイマイチよく分かっていない父親はポカンと一瞬したが、私が母親のことを「お母さん」と呼んだのが
よほど嬉しかったのか、涙目になっていた。

父親も今日をきっと懐かしいと思う日が来るだろう。

父親、母親、私の3人並んでソファーに座り、皆で手を握って
テレビを観る。

『あぁ、幸せだ。』


【懐かしく思うこと】~完~

昨日から今日にかけてめちゃくちゃ忙しかったです…
いつも♡︎ありがとうございます!いつの間にか600超えてました!めちゃくちゃ嬉しいです!ありがとうございます(_ _)

10/30/2022, 5:22:29 PM