「 瞳をとじて 」 ( ふぶ若 、 CP要素有 )
春も終わりに近付いて来た今の季節、夏特有のじめじめとした気温、陽射しが物語っている。
そんな夜の日だ、いくら夏だとは言え夜は肌寒いから薄い布団を掛けて寝ようとするもどうやら目が冴えて眠れないようだ。体勢を変えて寝れば、そのうちヒットする体勢に辿り着けるだろう、と寝やすい体勢を探るもやはり眠れる気配はなし。これっきりはしょうがない、眠くなるまで少し散歩でもしようと身体を起こして、軽く髪も整え結んで、乱れた寝巻きを直しながら外にでる。
やっぱり、少し肌寒い。でも歩いていくうちに吹いてくる風は肌に馴染んで、丁度いい。縁側に腰を掛けてぼーっと空一面に散らばった星を眺める時間が、時行にとっては少なからずとも好きだった。ぼーっとしていれば、 じゃり と石を踏み締める音が聞こえ、その方向に振り向くと、時行のおよそ倍背は高く、左目が長い髪で覆われている見慣れた姿が目に入ると時行は何故か笑みがこぼれた。
「吹雪。」
いつもより落ち着いている声のトーンで相手の名前を呼んだ。そうすると吹雪は時行の隣に腰掛ける。
“…眠れないのですか?”
最初に口を開いたのは彼だった。どうやら吹雪も眠れないらしい、時行と同様少し散歩をしていたんだそう。
「嗚呼、蒸し暑くて、普段ならすぐ眠れてしまうんだが…」
そう、時行は普段ならぱっと意識を眠りへと落とせてしまうのだが、今回はそうと行かなかったようだ。…吹雪は相変わらず夏になっても体温は冷たいままだ 。
“そうですか、自分も普段はすぐに眠れてしまう方なので……”
抱き締められる感覚に思わず言葉を途切れさせてしまう吹雪。なぜ今隣にいる主君が抱き締めてきたのかも分からずに、自分の手は小さき主君の背中へと伸びていく。
「…寒いか?」
主君には見透かされている様子。いくら体を動かしても、食べても少し体が暖まるだけで完全には暖まらなかった。そんな吹雪だが、たった一人の主君の隣では話しているだけで暖かくなれた。
“…いえ、我が君のお陰で暖かいです。”
人から抱き締められるなんて、これが初めてだ。自分よりもまだまだ小さい体で、暖めてくれようとしている姿がとてつもなく可愛いと思える。
「そうか、それは良かった。…吹雪は本当に体が冷たいからな、でも食後は暖まっているから、安心した。」
本当に、お優しい方だ。自分なんかを気にかけてくれて、優しい声色で呼んでくれて、微笑んでくれて、そして__自分にしか見せない表情
独り占めしているような気分で、心底嬉しい。
“……あの、我が君…。”
抱き着かれている時間が長く、自分も自分で色々と耐え難い。声を掛けるも反応は無くどうやら自分の体温が心地よかったのか寝息を立てて寝てしまっている。すやすやと眠る主君の表情に思わず ふ、 と笑ってしまう。
主君を起こさないように抱き抱えては、寝間に戻りそっと布団に横たわらせた。
“さて、自分もそろそろ寝ないとな…。”
自分の布団へと体を動かす前に、そっと主君の口元に口付けして囁いてやった。
“お慕いしております、我が君。”
「 瞳をとじて 」
1/23/2025, 9:19:55 PM