りくのいるか

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セーター

私は美大受験用の研究所と呼ばれる絵画教室に通い

1年浪人したのだが、

油絵は大好きだったので、少しは上手くなったものの

石膏デッサンが上達しなかった

真ん中に描いた石膏像が、形を取っているうちに

右に寄ったり左に寄ったり

まるで、描いた石膏像が生きていて

紙の中で私と追いかけっこをしているような感じだった

絵を描くと言うより

魔法使い見習いが

箒の乗り方を練習しているようなオカルト感があった

そんな、脳内で石膏像相手に死闘を繰り広げている私

の後ろで

先生達は呑気におしゃべりをしている

女の子ってさ、好きな男にセーターとか編んじゃうんでしょ?

怖いよね、だって、俺の事を想いながら一針一針編んだものをさ、マフラーだったらずっと首に巻く訳だろ

おっかねぇ!首絞められてるみたいじゃんかよ
気持ち悪ぃ!呪いだよな

で、手編みなんかもらったらさ

喜んであげなきゃならないんでしょ?

…黙って聞いていれば…なんてこった…

私は恋をして、手編みのセーターを編み終わっていたのだった

ツンツン…

好きな人を後ろからつついた

イーゼルにかかった油絵に夢中なフリをした無視である

私は2回つついてみて諦め

後日、自分でセーターを着て研究所で石膏デッサンをしていた

あらー?

自分で編んじゃったのかしらぁ?

と、先生の奥様が意地悪そうに微笑んでいた

女は恋に敏感である。

私はデブであったので、奥様にいつも容姿の悪口を陰で言われていて、

それを親友からチクられており、奥様が苦手だったのだ

誰に編んだのかしらぁー?
自分で着ちゃったの?クスクス…

うわあああああ!!内心、叫びたかったが

黙っていつも通りに石膏像と紙の中で追いかけっこをはじめたのだった。

11/25/2024, 9:04:29 AM