あの子は、いつも紅茶の香りを纏っていた。
アールグレイだった。香水か、シャンプーの香りかはわからなかった。あの子はいつも、たっぷりとした黒髪をなびかせて、颯爽と歩いていた。美しいその姿に、紅茶の香りはとてもマッチしていた。
あの子とすれ違うとき香るそれに、いつも私は何故かドキリとして、心臓の鼓動がはやくなった。
10年経った今、あの感情は憧れと言うやつだったのだと思っている。
私は前髪で視界を狭くして、自分の世界に閉じこもるようなタイプだったから。颯爽と歩くあの子が眩しくて、憧れてたんだ。
カフェでノートパソコンを開けて作業をしていたら、アールグレイの香りが鼻腔をくすぐった。私は思わず、あの子の姿を探してしまった。本物の紅茶の香りだとわかっていたのに。
私の視界は今、あの頃よりずっと広くなった。もう、自分の世界に閉じこもりがちな少女ではなくなった。
あの子は今、どうしているだろう。
あの頃のように、紅茶の香りを纏って、颯爽と生きているのだろうか。
私は、紅茶の香りとともに、遠い憧れに思いを馳せた。
10/27/2024, 1:42:04 PM