「いつまでも焼肉を腹いっぱい食える俺でありたい」
隣を歩いていた山野は、突如として切実な願望を吐露した。俺はそれ以外の言葉も特に思いつかず「あ、そう」と返した。ミント味のガムを噛みながら、こいつまた何か言い出したぞ、と思う。
「でも生きてたらさ、いつかは終わりが来るよな。カルビなんてすぐ食えなくなっちゃうんだよ俺たち」
そう語る山野の声音には、悲壮感が滲んでいる。
たしかに、今でこそ俺たちは若い。ピチピチの20歳であるので、胃も強い。今日だって、食べ放題でばっちり元を取ってきた。
けれども歳を重ねるにつれて、俺たちはだんだんとカルビから遠のいていき、たぶん最果てにはぬか漬けとかに行き着くのだろう。
夜道を歩きながら、俺は「それもまた人生なんじゃない」と言った。明滅する街灯の横を通り過ぎる。
「それでも俺は、10年先も100年先も1000年先も、ずっと焼肉を食い続けたい」
山野は言った。それなら勝手にすればいい。元気なおじいちゃんを目指してくれ。1000年も経ったら、さすがに飽きてしまう気もするけど。
「1000年後の焼肉屋ってどんな感じかな」
「全自動肉焼きロボットが肉焼いてくれる」
「技術進歩してるなぁ」
「もしくはゼリー状の肉もどきが出てくる」
「ディストピアになってるじゃん」
妙な方向に話が転がっていく。例えば、こいつとこんなふうに意味のない会話をして、いたずらに時間を溶かす夜は、あと何年続くのだろうか。そんなことをふと思った。
【テーマ:1000年先も】
2/4/2026, 9:26:55 AM