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ハッピーバレンタイン、
その言葉と一緒にことん、と音を立てておかれたのは
少しだけ湯気が立っているマグカップ。
中身は茶色。香りはコーヒーより甘く感じるけど、
ココアのような香りではない。

なんだろうな、これ。
あ、淹れたてなのかなぁ。

熱いから気をつけてね、

その言葉にコクリと頷く。

淹れたてみたいだ。

ふぅふぅと息を吹きかけて冷ましてから一口。

「苦いね」
「じゃあこのマドラー使ってみて」

はい、と手渡されたのは少し変わった形のマドラー。

「あれ?チョコの味した?」
「あのマドラー、チョコレートが先についてるの」

へぇ、そうなんだ!と言いながらまた一回し。
少しずつ溶けていくチョコレートと、ココアより苦くてブラックよりは甘いこれ。

「ねぇ、この飲み物ってなんていうの?」
「カフェモカ」
「これ好きだなぁ……ありがとね」

お礼を言うと、うぅん、と首を横に振られた。

「ほんとは普通にチョコわたそうかなって思ってたんだけどさ」
「うん」
「あんまり甘いの得意じゃないって言ってたような気がして」
「まぁ、少しなら好きだよ。覚えててくれてうれしいや」
「だからさ、それなら良いかなって。カフェモカにも一応チョコ入ってるし」
マドラーはもし甘さ足りない時にと思ってたから、使ってもらえて良かった。

「君がくれたからだよ」
だから甘くてもにがくても大好きなんだよ。

「ホワイトデー楽しみにしててね」

さて、何を返そうかな。

そう考えながら一回ししたマドラーの先端にチョコはなく、カフェモカは少しだけチョコレートが濃いめの味になった。

2/14/2025, 3:02:14 PM