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「セーター」

明日はクリスマス。
家族からはもう大きいからサンタさんは来ないよ、って毎年言われてるけど、サンタさんはちゃんと約束通りプレゼントを届けてくれている。

でも、サンタさんは1つだけ叶えてくれないことがある。

プレゼントはいりません。
サンタさんに会いたいです。

毎年書くことは同じ。
書いた手紙を枕元に置いて寝る。

サンタさんは欲しいものをくれる。
でも願い事を叶えてくれるわけじゃない。

前にお母さんに聞いたら、サンタさんは自分がサンタさんだってバレたら、サンタさんをやめなきゃいけないんだよ、と言っていた。

だから今年はサンタさんにも両親にもバレないようにこっそり起きて、サンタさんを一目見ようと思った。


物音がして目が覚める。
サンタさん、来たかな?と布団からこっそり顔を出す。
―サンタさんは自分がサンタさんだってバレたら、サンタさんをやめなきゃいけないんだよ
お母さんの言葉を思い出す。
サンタさんはいつもプレゼントを届けてくれている。
それなのにわたしがサンタさんを困らせちゃうのはダメだよね。
でもちょっとだけ、サンタさんに会いたい。

布団から起き上がると、うっすら廊下の電気がついていた。
サンタさんも電気つけるんだ。
暗闇の中で寝ている子供たちに気づかれないようにプレゼントをこっそり置いてくるものだと思っていた。
ちょっと意外に思いつつ、廊下を双眼鏡で見る。
廊下には誰もいない…
お父さんとお母さんの部屋かな?
忍び足で扉に近づき、そっとドアノブに手を掛ける。
サンタさん、ごめんなさい。


「ミア?」
部屋にいたのは寝ている両親と妹のミアだった。
さすがにミアがサンタさんではないよな。
「…なんでこんな時間に起きてるの?お姉ちゃん?」
「目が覚めたから。ところで何してるの?」
「何って?」
「机の上、何か工作したかのように散らかってるけど」
ミアははっとしたように机の上を見た。
折り紙の切れ端、開きっぱなしのはさみ、床に転がったのり…
「別に何でもないよ」
「何でもなくないでしょ。遊びたいのはわかるけど、夜は寝ないと明日1日中眠くなっちゃうよ」
「遊んでないよ」
「じゃあ、なんなの?」
ミアは降参したように一度俯いて顔を上げた。
「お姉ちゃんは大きいからサンタさんからもうプレゼント来ないと思って。でも来なかったらお姉ちゃん、悲しくて泣いちゃうだろうなって」
だからこっそりプレゼント準備してたのに、と言って妹はわたしにセーターを渡した。
「このセーター、前にわたしがほしいって言ってたやつ」
「それは友達用に作ったものね。お姉ちゃんがほしいって言ったから新しくもう一つこっそりセーターを作ったの」
手先が器用なミアは以前友達の誕生日プレゼントにセーターを編んであげていた。
それを見たわたしがほしいとせがんだのだ。
「せっかく可愛く包装しようと頑張ってたのにお姉ちゃんが起きちゃって全部バレちゃった」
「ごめんごめん。いや〜、ミアがサンタさんかと思った」
「そんなわけないでしょ」
「でも今年はサンタさんだね。クリスマスプレゼント、ありがとう。サンタさん」
「…ふん。早く着てみてよ」
セーターはぴったりだった。
いつかお下がりでそのセーター使うから大事に使ってよ、とミアは何回も言った。
サンタさんが来ても来なくても、会えても会えなくても最高のクリスマスの思い出。
ありがとう、ミア。


あれ、8時?
毎年クリスマスは誰よりも早く起きて、自分のプレゼントを1番に見つけて開け、ミアのプレゼントを振って中身を推測するわたしが寝坊をしてしまうなんて。
急いで一階に降りると、珍しくミアが先に起きていた。
わたしのプレゼントは…
「いつもお姉ちゃんがプレゼント振ってるの知ってるから。そのお返しだよ」
「ぎゃあぁぁ、やめて。壊れるよ」
わたしのプレゼントはちゃんとあった。
ただし、ミアがめっちゃ振ってるけど。
「これでこりたか、お姉ちゃん」
「参りました」
「よろしい。ちなみに振った感じ音が鳴らないから柔らかいものな気がする」


わたしのクリスマスプレゼントはサンタさんのコスチュームだった。
「君が次のサンタさんだ」と丁寧に手紙が付いていた。
「来年のクリスマスプレゼント、期待してるよ。サンタさん」とミアはにやにや笑った。


サンタさんに1つだけ叶えてほしいことがある。

サンタさんになっても、プレゼントがほしいです。

来年から書くことはこれ。
書いた手紙は枕元に置いて寝る。

サンタさんは欲しいものをくれない。
でも願い事は叶えてくれるはずだ。


サンタさんにもらったセーターをミアが、ミアにもらったセーターをわたしが着てクリスマスの記念に写真を撮る。
今年の年賀状の写真はこれで決まり。


11/24/2024, 2:13:56 PM