敗者の肖像
一目見て、負けた、と思った。
それくらい異質だった。その絵の周りの壁だけがひずんで見えた。
細部まで目を凝らしてみるが、大胆なのにリアルに見える色遣いも、線の一本一本による描き込みも、どうやって描いているのか全く分からない。到底真似できない。
キャプションには、「高校2年 小柳冴」。
同い年に、こんな絵を描く人がいるなんて。
私は、ただただ絵の前に立ち尽くすことしかできなかった。
高校総合文化祭の県展覧会が終わり。
全国に出ることのできなかった私の絵は、手元に戻ってきた。今見ても、モチーフのリアルさも、テーマの表現も、悪くない。
ただ、あの絵と並ぶと、とたんに安っぽいもののように見えてしまう。あの絵は化け物みたいだ。他の絵を食べて、栄養を抜き取る化け物。私の元には萎びた外側だけが残っている。
小柳さんの絵は、やっぱり全国でも入賞したらしい。
目を瞑って一息ついて、絵の前から離れた。
そして、机に向き直り、筆を握る。
私は、新たな作品を描き始めている。
諦めない理由なんて特にない。
物心ついた時から、絵を描いていた。家族や友達に褒められてきた。絵を描くこと、と、私であること、は既にイコールで繋がっている。つまるところ、筆を折るにはもう遅過ぎたのだ。
今は絵を描く目的に、「小柳の絵を超える」が増えたに過ぎない。そのために、この悔しさも怒りも"使える"はずだ。
筆を握る指にぐっと力を込めた。
10/8/2024, 6:01:04 AM