わをん

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『夫婦』

落葉の舞う公園を年老いた夫婦が手を繋いで寄り添って歩いていた。あんなふうに仲睦まじくいたいと思うも私の妻は隣にいない。
時を越える能力がいつから私に備わっていたのか定かではないが、おそらくは幼少の頃の実験によるものだろう。非人道的な施設から救い出されてからは周りの協力もありただのこどもとして育つことができた。能力を発揮するような場面とも無縁なまま大人になり、妻となる人と出会えた。
このまま穏やかに過ごせるものと思っていたが、幼少の頃の因果は私をそうさせてはくれず、私から妻を奪った。そのときに、私に備わった能力はこの時のためのものと思うようになった。
妻を救うために時を越え、そしてまた失い、また時を越える。考えうる分岐点を何千何万回とやり直しても私は妻のことを救えない。次第に心は擦り減って、私は妻がいないままの時を過ごすようになっていた。
「もし、そこのあなた」
前から歩いてきた老夫婦が私に話しかけてきた。
「諦めてはいけませんよ」
何を、と問う前にふたりの顔にある私と妻の面影に気づく。
「あなたたちは、」
私が言いさすのを制した夫婦は何も言わずに穏やかに微笑み、そして去っていった。呆然とふたりを見送った私は萎えていた心が希望に膨らむのを感じていた。

11/23/2024, 5:22:49 AM