→短編・彼の夢
年の瀬せまる慌ただしい週末の町中で、知らない青年に声をかけられた。
「要らない夢の欠片を譲ってくれませんか?」
荒唐無稽なお願いに、思わず足を止めてしまった。厄介な人だと面倒だなと思ったが、後の祭りだ。
青年は人の良さそうな笑顔を浮かべ、朗らかに続けた。
「欠片で大きなパッチワークの布を作って、地球全体を覆ってやるのが、僕の長年の夢なんです」
彼の壮大な計画を聞きながら、私は彼の胸前の箱と隣の建物に気がついて、笑いを吹き出してしまった。彼は屈託なく肩をすくめた。
青年の意表を突く足止めに感服して、私は鞄から財布を取り出した。
「私の夢が誰かの毛布になるんだね」
「そういうこともあります」
彼の持っている箱に夢の欠片を落とし入れる。チャリン。
彼は『歳末たすけあい募金』の箱と共に頭を下げた。
「ありがとうございます! 良いお年を!」
彼の隣の宝くじ売り場では、年末ジャンボを売っていた。
彼の夢が叶う世界を見てみたいものだと思いながら、私は宝くじを買った。
テーマ; 君が見た夢
12/16/2025, 2:47:05 PM