夜のベンチ、自動販売機の横で、俺は缶コーヒー片手に項垂れていた。
「昔さー」
「んー?」
「おもちゃ屋のCM、あったよな」
「んー?」
「子どもでいたい、ずっとトイプラザキッズ、ってさ」
「あー、あったな」
隣で友人が同じく缶コーヒーを片手に俺の話を聞いてくれている。
昼の式と夜の二次会ですっかり疲れてしまったスーツは、ところどころシワが寄っている。
「俺たちさー、もう大人なんだな」
「そりゃ、そうだろ」
友人はブラックコーヒーを一口あおった。
「ずっと、あの頃のままでいたかったよな」
「まあ、な」
項垂れたままの俺を友人が半ば呆れているような、同情しているような目で見下ろしているのが、見なくてもわかる。
「なんで突然なんだよ」
「そりゃまあ、頻繁に会ってなきゃこういう連絡くらいしか来ないだろ」
「そうだけどさあ」
昼間の真っ白なタキシードのあいつを思い出し、はあとため息をついた。
「あんなに仲良かったのになあ」
子どもの頃のままだったら。
あんなに毎日遊んでいたのに、大人になっただけでこうも連絡を取らなくなるものか。
「ま、それが大人になるってことだろ」
俺の気持ちを見透かしたように、友人は言い、飲み終えた缶を自動販売機横のゴミ箱に捨てた。
俺は一口飲んだだけの缶コーヒーを飲めずに、昼間のあいつと同じような色をした月を見上げた。
5/12『子供のままで』
いつだったかドラマか何かで見たシーン。
海辺を2人で歩いている恋人同士がいた。
ふと男が止まり、女と距離を取った。
女が気付かずに進んでいくと、男が女の名前を呼んだ。
振り返る彼女に、男が叫ぶ。
「愛してるー!」
女は恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに口元を手で覆い、男の下へ駆けていった。
「ばか!何恥ずかしいことしてるの!」
「だって、言いたかったから――」
そのまま男はポケットから小箱を取り出し――。
「でもあれ、恥ずかしいだけだよな。人がいたら羞恥でしかない」
カフェでミルクを入れたアイスコーヒーを飲みながら言った。
「そう、かもね」
紅茶を前に若干言い淀んだ彼女の返答にはたと思い至る。
「え、もしかして、言ってほしい?」
「少し、憧れるかも」
物静かな彼女からは想像しし得なかった、思いがけない大胆な発言。
「わかった」
俺は頷いた。
「じゃあ、今度のデート海に行こう」
5/11『愛を叫ぶ。』
真っ白なドレス。
左右対称に並ぶ点は、まるであなたを見つめる両目のよう。
ひらひら、ひらひらと舞う様は、あなたを追う探偵のよう。
公園でベンチに座る私の視線の先で、モンシロチョウが舞い飛んでいる。
その先で、あなたは別の女性と腕を組んで歩いていた。
ひらひら、ひらひら、モンシロチョウは空を舞う。
5/10『モンシロチョウ』
5/12/2026, 12:46:31 PM