「好き、嫌い、」
彼女はニコニコと笑いながらカツンカツンとわざとらしく靴音を鳴らし、私の座らされている椅子を中心にぐるりと周った。
そして目の前でぴたりと止まると、
「ねぇ、キミも恋占いって好きかなぁ?」
……と、意味わからない事をほざく。
そしてドスンと何の躊躇いもなく私の膝の上に腰をかけてきやがった。
気色が悪い……というか、すげームカつく。
そもそもこんな薄気味悪い場所に拉致監禁して、
四肢全てをガチガチに椅子に固定してくるようなヤツがまともなわけがない。
それでは飽きたらず、ご丁寧に口まで塞いでくれちゃって、一体何したいんだ?この女……
そんな気持ちを込めて膝の上にいる小柄な女をキッと睨んだ。
「きゃぁ、こわぁ〜い!質問しただけじゃ〜ん!
そんな顔したら、その綺麗なだけが取り柄の顔面が台無しなんですけど〜!」
女の本質なのかぶりっ子なのか知らないけれど、
赤の他人に好き勝手されているこの感じは、とにかく最悪すぎる。
少しでも抵抗を見せるため、
ガチャガチャと身体を動かしてやった。
「うわっとと……!ねぇ!可愛い女の子が膝の上にいるのに動かないでよ!
……まぁ、そんな抵抗意味ないけどね。
とにかく!今から、私、恋占いをしまぁ〜す♡
キミも知ってるやつだよぉ?
お花でやるやつ!好き、嫌い、好き〜って!」
まだこの女はきゃっきゃと無邪気に会話を続けてくる。
「でも、こんな廃工場?じゃお花なんてないからぁ……
別のものでやりまぁす♡!
その、キミの、キラキラ の 爪 ……でねっ♡」
は?
何を言ってるのだろう?こいつ……
私の爪で何するって……?
想像するより前に恐怖が襲ってくる。
相当ヤバい事に私は巻き込まれているのではないか……?
動揺で目が泳いでしまう。
「あはは〜っ♡わっかりやす〜♡
目がキョロキョロ、心臓バクバク!キモ〜い」
さっきまでの嫌味ったらしい猫撫声から
どんどんと声のトーンが落ちていく。
「そもそもさぁ、キミが悪いんだよ?
私の……私のユウくんなのに……
お前みたいなビッチが近づいたらさぁ?
穢れちゃうじゃん。ほんと最悪。
だからさぁ、こうなっても仕方ないんだよ。
わかるよね?ねっ?
私はさ、ユウくんのお姫様でユウくんは私の王子様なの!
だから、ウザすぎビッチ女からユウくんを守るのも私の仕事なの!うんうん!そうなの!」
そう言うと、女はストンと膝の上から降り
椅子の脇にある錆びついた工具箱から重々しいペンチを取り出すと、カチカチと開いたり閉じたりしてみせた。
怖い……誰?ユウって。知らない。
いや、怖い怖い怖い……
拘束なんてされてなければ、
こんな女になんて絶対に負けないのに。
恐怖を感じている心と、こんな場面でも負けたくない心がぶつかり合い涙となって溢れてくる。
悔しい。やりたい放題しやがって。
絶対に許さない……!
……でも、どうすることもできない。
とにかく私はこの女を睨みつける事だけはやめなかった。
絶対に、絶対に負けない。こんな女に。
私は私自身との誓いと決意をこめて、
口を塞いでいる布にぐっと歯を食い込ませた。
「何?その目?めっちゃムカつくんですけど〜。
……まぁいいや。はぁ〜い、恋占い開始っ♡」
「好き、」
バチンッ
「嫌い、」
バチンッ
バチンッ…
バチンッ……
……
「えっ!?嫌いで終わっちゃう!!やだやだぁ!
えーっと、超すーきっ♡」
バチンッ
.
6/20/2025, 11:10:11 AM