いろ

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【胸の鼓動】

 朝起きるといつも、君の頭が僕の胸に乗っている。僕が目を覚ましたのに気がつくと、悪戯っぽく笑って身を離し、おはようと笑うのだ。
「うん、おはよう」
 まだショボショボとする目を擦りながら身体を伸ばす僕を、君は穏和な笑みを浮かべて見守っている。そんな君へと手を伸ばして、僕は君の艶やかな黒髪をくしゃりと撫でた。
「え、何?」
「別に。なんか撫でたくなっただけ」
 驚いたように目を瞬かせた君へと、ぶっきらぼうに応じた。朗らかで賢く優秀な人材として世間からは評価されている君が、本当は臆病な寂しがり屋だってことを、僕だけは知っている。
 ――朝起きて貴方の呼吸が止まっていたらと思うと怖いのだと、そう泣きながら打ち明けたかつての君の姿を思い出す。それを聞いてすぐに、僕は君に同居を提案した。そうすればいつだって、僕の息を確かめることができるから。
 毎朝僕の胸に耳を当てて鼓動を確認しなければ不安に押しつぶされてしまう君の脆さが、世界の何よりも愛おしいなんて、僕もたいがい趣味が悪いのかもしれない。そんなことを思いながら、僕は君の肩をそっと抱き寄せた。

9/8/2023, 10:20:57 PM