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星空の下で

 東の国の夜は冷たい。こごえる幼子を抱きかかえた母親が、前の者に続いて粗末な小舟に乗り込んだ。西へ向かう舟だ。
 この舟に乗るために、彼らはなけなしの全財産をはたいた。それは極めて危険な決断だった。もし秘密警察に見つかったら、処刑は免れない。
 それでも舟に乗ることにしたのは、生きるためだった。あるいは大切な人を生かすためだった。東の国はとても貧しい。病で先は長くないと言われた娘も、医療の発達した西の国へ行けば救うことができるはずだと、その母親は信じている。
 不安げに身を寄せ合う彼らの頭上には、満天の星が煌々と輝いていた。中でも一際明るい光を放つその星の名前を、彼らの誰も知らなかった。

 ところで、都市化が進んだ西側諸国の住民たちにとって、東の国との国境にある非武装地帯周辺は、現代に残された貴重な自然の楽園だった。
 もはや人気の観光スポットと化したその場所では、今夜も恋人たちが星空を見上げて、ロマンティックに愛を囁き合っている。
 君は僕のシリウス。どんな暗闇の中でもその輝きが僕を導いてくれるよ。

4/5/2024, 1:39:29 PM