あやや

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 これまでずっと培ってきた何かがぶっ壊れた。それは、浜辺に作られた城が、波にさらわれただの砂の山となるような、悲惨な結末であった。
 そして、私の目の前にあるそれは、崩れた砂上の城のように、原型を留めていない。波にさらされたじっとりとした砂のように、そいつを触るとじとりと不快さを運ぶ触感がした。両手で持ってぎゅうと絞ったら、一体床にはどれほど液の溜まりができるだろうか。想像するだけで私はきゅうと喉の奥が閉まる心地になる。
 どうするべきか悩んでいた。私は悪くない。そいつは足を滑らせたのか、手を挟み込んだのか、勝手に機械の中に飲み込まれ、挟み込まれ、潰され、こうしてじっとり濡れる羽目になったというのだ。安賃金でこんな工場でやりたくもない仕事をやって、それでも慣れてきたと言うのに、私はそいつを目の前にしてどうすれば良いのか悩みに悩んでいるのだった。
 何とは言わないけれど飛び散った破片は惨状をありありと描いているのだが、私はそれでも頭の中に途方もないような危機感を抱いた。それは全く杞憂というやつだろうが、私はどうにも心配性だった。
「こいつを私のせいだとでも疑われたら、最悪」
 つまるところはそういうコト。やはり人は自分の身に最も重きを置く生き物なのである。
「うぅむ」
 やはりこれまで培ってきた何かが壊れたのだろうか?以前の自分(というか数分前の自分だ)であればもっと違う反応を示したに違いない。

「ま、仕方ないか」
 しばらくの逡巡はその一言で幕を閉じる。諦めも、また人間に与えられた権利の一つであるので。とりあえず何を呼ぶか、警察か、先輩か、部門長か、社長か?いや、どうせ全員出張るのか。それなら、一番最初に目についた人で。
 そうして逡巡の割に簡潔に決めて、私はとりあえず移動する。誰かに報告したらたちまちこの悲劇に大騒ぎだ。私もこの事件で気分は良くない。
「あーあ、私が殺したかったな」
 もしそうしたら悲劇は多分惨劇に早変わりだったろうな。
 

7/12/2023, 5:59:21 PM