静寂に包まれた部屋
学生の頃、宿題をするときはいつもラジオをつけながら机に向かっていた。古文・漢文、それから英文を、教科書から書き写す。その後、訳す。ラジオを聞きながらでも、スムーズにできた。
ところが、作文、論文となると、一向にペンが進まなくなる。原因がラジオだと気づくのにしばらくかかった。
要は、単純な作業はノリノリでできるが、創作、オリジナルのアイデアを生み出そうとするときは、周りの音が邪魔になるのだ。いまもそれは変わらない。なら……。
静寂な部屋を作ろう。
デスクに着く。テレビもラジオも消す。ユーチューブも消す。
まだだ。秋。虫の声。近所のバイクの轟音。こればかりは何もできない。じゃああきらめるか。いや。
雑音に引っ張られるのは集中してないからだ。どんなシチュエーションでも、自分が集中していれば問題ない。
と、昔、有名な数学者が講演で言っていた。
確かにそうだ。集中しているとき、周りの音は気にならなくなる。
目を閉じて深呼吸する。自分の意識を深く深く沈めていく。
僕はいま、何を書こうとしたのか。何が書きたいのか。今日これを書かなかったら後悔しないか……。
繰り返し繰り返し、自分に言い聞かせる。
ペンを取り、書き始める。文章の最初の言葉が書ければ、あとはスラスラと続いていける。
やがて、止まらなくなる。
こうなったら、もう大丈夫。
何者にも侵されない、静寂に包まれた部屋の出来上がり。雑音はもう、僕には届かない。
9/29/2024, 12:41:11 PM