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まだ梅雨も終わらないっていうのに妙に陽射しが強くて、屋敷内の薔薇園では四季咲きの二番花が一斉に咲き誇った日のこと。
いつものように芝生に寝転んで、傍には手づくりのクッキーと、アイスティーとコーラ。
いつもと同じだった。

正直暑いのは苦手だ。
顔に出てたんだろう、お嬢は心配そうにひとつしかない日傘を傾けて俺を入れてくれた。
それから暫くは、いつもと同じだったんだ。

この日のことは、今でも鮮やかに憶えてる。
くっつくほど間近にあるお嬢の、耳まで真っ赤な顔。震える瞼が閉じられた瞬間。お菓子みたいな甘い香り。それから、初めて触れた柔らかな唇。
 
この日、小さなレースの傘の陰に隠れて。
俺たちは初めてのキスをした。

6/19/2024, 10:34:36 PM