『あの日の毛色』
あの日の毛色は
やわらかな灰色
雨の前にだけ香る 湿った空気のような色だった
陽のあたる窓辺では
銀に透けて
影の中では 墨のように沈んだ
鳴きもせず
ただ、こちらを見つめていた
問いも答えも いらないと
その目が言っていた
手を伸ばせば届く距離で
でも、心だけが少し遠くて
それが ちょうどよかった
今でもふと、思い出す
もう会えないのに
その毛並みだけが、胸の奥で揺れている
あの日の毛色は
記憶にしか残らない
でも、たしかにそこにいた
静かな ひとつの命
7/8/2025, 4:12:27 PM