『愛を注いで』
街道の隅に、美しい女性が立っていた。
女性は透明なグラスを両手で抱え、それを少しはだけた胸元まで運ぶと、こう呟く。
「私に愛を注いでくれませんか」
その時、たまたま通りかかった酔っ払いが彼女の顔を覗き込む。
酔っ払いは気持ちの悪い笑みを浮かべると、いやらしく鼻元を伸ばし、グラスに並々と札束を満たしていった。
「ありがとうございます」
女性はにっこり微笑むと、札束をポケットに詰め込んで、酔っ払いを置いて1人で何処かへ去っていった。
その様子を遠くから眺めていた自分は、こんなに簡単にお金を稼ぐ方法があるのかと感銘を受け、翌日、早速これを実践することにした。
「私に愛を注いでくれませんか」
空っぽのグラスに並々と愛を注いでくれる紳士を求め、昨日女性が立っていた街道へと足を運ぶ。
しばらくすると、通りかかった酔っ払いが、うすら笑みを浮かべながらこちらへ歩いてくる。
アルコールの匂いを漂わせ、酔っ払いは顔をぐいと近づけると、空っぽのグラスへと視線を落とす。
「おろろろろろろ」
そして、空っぽだった俺のグラスはあっという間に満たされたのだった。
12/13/2023, 1:57:40 PM