ストック

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Theme:1000年先も

少し昔に流行った「教科書を読み直す」ブームに乗って、私は喫茶店で歴史の教科書を読んでいる。
日本史も世界史も、太字で書かれているのはどれも争いの記録ばかりだ。少しうんざりしてしまう。
運ばれてきたコーヒーを口に運びながら古いテレビに目をやると、某国間での戦争の光景が映し出されていた。

やれやれ。同族同士でこんなに露骨な殺し合いを飽くことなく続けている生物は人間くらいなものだろう。
イデオロギーの違いや資源をめぐる争い、国家間の対立などお題目はご立派だが、やっていることはただの共食いと変わらない。人間は特別な存在などではなく、むしろ出来損ないの生物なのだろう。

ま、私もその人間には変わりない。
こんな悲惨な状況がテレビに映し出されているというのに、呑気にコーヒーなんて飲んでいるのだから。

ふと「1000年先も人類はやはり戦争をしているのだろうか」という疑問が頭を過った。
ページを繰る手を止めて少し考えてみる

私の結論は「NO」だ。

人間は、技術は発達しすぎてしまった。次に世界規模の戦争が起きたら、人類も文明も跡形もなく吹き飛んでしまうだろうから。
そしてその戦争が起きるまできっと1000年もかからないだろう。

人間という種はきっともう寿命なのだろう。過去から学ぶことを忘れ、進化することを止めてしまった。
進化をしない生物。それは完成形であり、後は朽ちていくのを待つだけだ。

私はあらゆる戦争の記録が載った教科書を読むのを止めた。滅びゆく種について学ぶことに意味を見出だせなくなってしまったからだ。
会計を済ませて喫茶店を出ていく。

私が去った後のテーブルには、冷めてしまったコーヒーと読みかけの歴史の教科書が残された。

2/3/2024, 2:07:21 PM