秋茜

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“君が見た景色”

 なんの変哲もない、ありふれた道だった。バス停があって、横断歩道があって、少し足を伸ばすとちょっとしたレストランが軒を連ねている。人々はひとりだったり、家族と一緒だったり、友達と肩を並べていたり、それぞれの形で存在している。空は高く青く澄み渡っていて、その色につられてなんだか空気が美味しいような感じがして。ごくごく、その辺に転がっていそうなこの風景は──君が見た景色なのだ、と思うと。ひどく特別なものに思えて、掻き乱された。

 毎朝この景色を見て、君は育ってきたのだ。なら、今見えているこれらは、もはや君の一部と言っても過言ではないはずだった。

 はあ、と大きく息を吐く。ため息ではなかった。身のうちに溜めておけない衝動を散らすための行為。

 ――心臓を、吐き出してしまいたい。

 景色を眺める。君の気配を探して。

 手を伸ばす。

 こんなにも色濃く感じられるのに、どうして。

 君が、いない。

8/14/2025, 3:12:19 PM