「モンシロチョウ」
-あの日は確か、春だったか、夏だったか。
暖かくて明るい太陽の下、綺麗な緑色をした地面に座り込み、僕は意味もなく空を見上げていた。
僕の顔をなぞるようにすっと流れる柔らかい風を感じながら、ただただぼーっと一点を見つめる。
ふと、地面の方に目をやると、そこには僕よりも小さく、白くて美しい命があった。
何も考えずに、明るい日に照らされた綺麗な一羽の蝶に優しく触れた。
小さな命は僕の指に留まり、ほんの数秒でひらひらとどこかに舞ってしまう。
僕はそれに悲しいなんて感じずに、微笑みながら、野原を飛んでいくモンシロチョウを眺めていた。
思い返せば一瞬で、ショートストーリーにもなりきれないような幼少期のうっすらとした記憶。
でも、こんなに小さな記憶が
僕の中では、美しく儚げで、でもどこか優しい気持ちになれるような
綺麗で純粋な記憶なのかもしれない。
5/10/2023, 8:26:27 PM