『時計の針』
「……というわけで、如何して遅刻したのか理由を話してもらおうか」
人間が勝手に生み出した時間という概念に囚われた哀れな男が、アイデンティティの確立に忙しいマージナルマンたる私を睨めつけながら問うてきた。
時間に囚われてしまうのも仕方が無いことだと理解している、人間という矮小な存在である限りそれは逃れることの出来ない宿命だと言っても過言では無いだろう。
だが……時間とは本来存在しないものだ。
時計の針が何処を指していようと関係が無い、これは認識の問題だ。
短針と長針がズレた時に、それを針が離れたと捉えるのか、それとも針が近づいたと捉えるか。
そんなことは自らの認識によってどうとでも解釈することが出来るだろう?それと同じことなのだ。
時計の針が何処を指していようとも、それは現在であり過去であり未来でもある、それこそが時間に対しての正しい認識といえよう。
そう、私のこの認識が正しく真実である。
で、あるならば……いま目の前で目くじらを立てながら私を睨みつけているこの男は何様のつもりなのだろうか?
私は多少の理不尽なら許容することが出来る、それが相手の不徳によるものだとしても慈愛の心を持ってして抱擁することも辞さないだろう。
私は寛大である。
……だがどうだ?
どれだけ懇切丁寧に説明しようともそれを認めず、自らの過ちに気付かないばかりか、その叡智を授けてくれた賢人に対して不敬な態度で詰め寄る。
いくら私が善きサマリア人だとしても限度というものがあるだろう?
「そこのところどうお考えですか?先生」
「…………親御さん、呼ぼうか」
「やめてっ!?」
2/6/2023, 7:30:57 PM