髪弄り

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「ずいぶん遠くまで来たものだ」
闇の支配する森の中、無意味に響く、空虚な言葉、人里離れた高山の奥地に、誰も答えるものはない。

「言うのはまだ早い」
土埃だらけのバッグから、小瓶を一つ、手に取った。月明かりが私を照らし、蓋に浮かべた文字列を写す。
“最期”

「月に看取られ死ぬ。滑稽なものだ。」

蓋を回して、中を見る。

緑と光沢ある粉と、それに混ざる白い粉。
水を注ぎ、綿棒でかき混ぜる。粉が浮かび泡立つと、どろどろとした黒いものに姿を変えた。


髪と草木が風に揺れ、身体に意味のわからぬ震えが起こる。

「何を怯えることがある。人は皆どうせ死ぬのだ」

無意な哲学を口にして、震える両手を勇気づけ、私は小瓶を飲み干した。
ザラザラとした砂粒が喉の各所にへばりつき、薬品じみた苦みと甘み、火傷のような無感覚から、急落するような微睡みが来た。

止まらぬ拍動、瞳が膨らみ、ぎちぎちと音を立てている。消えかけた焚き火に薪を継ぎ足すような、命の止まらない抵抗だった。
あらゆる音が消えた頃、視界の月の姿は消えていた。

いつの間にか、花畑に立っていた。
白い冠じみた花々は、鼻を擽り、その匂いは少年時代に嗅いだものだ。隅っこに誰かが立っている。私が腕を伸ばすと、からかうように押し返された。

木々の隙間に光が漏れて、何本もの柱を写す。濡れた地面に私は座っていた。
空を見ると、どこまでも続く水平線に、朝日が浮かんでいた。腕で顔を拭きながら、
私は山を下っていった。

『脳裏』

11/9/2023, 12:11:45 PM