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大人数の飲み会。
仲のいい同期に誘われて
行きたくはないけど飲み代かからないなら、
節約にもなるし。

軽い気持ちで来た飲み屋の端で
せっかくなら会費分くらいの食事はしていこうと
費やした労力の元をとるために食べる。

「楽しんでる?全然話してないみたいけど」

誘ってきた同期は隣から遠く離れた席へ移動していた。
こういう交流会ってあんまり好きじゃないんだよね、とか
言いながら楽しそうに喋りかけてくる。
始めは会釈だけだった反応が軽い相槌に変わり
気がつけば名刺を交換して普通に話を聞いていた。

それだけ、それきりだった。

後日、商談のために取引先へ行ったとき
あいにく相方が欠席で不安が残るなか
1人で何とか終えたが、手応えがいいとは言えなかった。
酷い雨が降る外をみて少しいいシャツを着てきたのに、と
気落ちしながらロビーを歩いていると
裾を引かれ、声をかけられた。

「通り雨みたいだからすぐに止むと思うけど、
急ぐなら傘、どうぞ。」

差し出されたのは折りたたみと普通の長傘、2通りの傘。
これは置き傘でこれは今日の予報みて持ってきた傘、と
求めてもいない説明をされ
ふたつあるから心配しないで持って行って!、と
長傘を握らされる。
なんとなく申し訳なくて折りたたみで、と言うが
もはや何が申し訳ないのかもわからなくて半笑いになる。

「なんかわかんないけど、笑ってて良かった!」

返すために連絡先を交換して
お互いに背を向けた頃には雨も小降りになっていた。

それから
いつの間にか仲良くなって
いつの間にか付き合って
いつの間にかいなくなった。

最近、連絡もないし家にも来ないし
何かがおかしいと思ったときにはもう遅かった。

何気ない空間を居心地のよい空間に変えてしまうきみが
思いがけずひとの心を開かせてしまうきみが
不思議な気の遣い方をするきみが
どんな人も笑わせてしまうきみが
輝く笑顔のすてきなきみが
どうしようもなく好きなことに
いなくなってから気がついてしまった。

1つひとつのことは今でも鮮明に思い出せるのに
時が過ぎるのはあっという間で
信じられないほど濃く、速く駆け抜けた。

置き換えダイエット食品を置いて満足するきみも
自分に似合うものがわかっているきみも
棚の角に足の小指をぶつけるきみも
好き嫌いがはっきりしているきみも
自動録画の設定を間違えるきみも
仕事に情熱をかけるきみも
甘いものを買い込むきみも
趣味に没頭するきみも
全て知っていると思っていたはずなのに。

きみのこと、何も知らなかった。

こんなに一緒にいたのに、知らないことばかりな自分が
情けなくて悔しくて腹立たしくて。

こんなに好きなのに

こんなに悲しい
こんなに寂しい
こんなに苦しい

こんなに痛いのに
こんなに居たい



だから、1人でいたい。

8/3/2024, 2:22:27 AM