お題『繊細な花』
主様と俺はエスポワールの街にある美術館に来ている。以前主様が画集を広げて、実物をご覧になりたいとおっしゃっていた絵画が目的だ。
「すごい……近くで見ると絵の具がゴツゴツしているのね」
10歳にして初めての美術館だ。鑑賞の仕方は人それぞれではあるけれど、少しだけ助言を差し上げることにした。
「主様、近くで観るより少し離れた方が全体を楽しめますよ」
すると、どうだろうか。主様は、ごくごく小さなお声で「ひゃあ」と感動の声を上げた。
「すごい、フェネス。このお花の絵、本で見たもしゃの絵よりもずっとせん細だと思うの」
瞳をきらきらと輝かせながら一枚一枚を丁寧にご覧になっていく。
しかし、芸術鑑賞は自分が思う以上にエネルギーを使う。それは主様も例外ではなく、目的の絵画にたどり着く前にお腹がキュルリと鳴っているのが聞こえてきた。
「主様、ここの美術館にはカフェもございますよ。よろしければ少しご休憩されてはいかがでしょうか?」
俺の提案に主様の目はもっと輝きを放ち始めた。
最初の花の絵画を繊細だと感動していらしたけれど、芸術よりもまだまだ甘いものの方がお好きなご様子だ。
前の主様がいらした、あちらの世界で言うところの『花より団子』なのかもしれない。
6/25/2023, 11:53:07 AM