12/3『冬の足音』
※12/4『秘密の手紙』は
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タイトル『冬と一緒に』
夕暮れの街を歩いていたら、冬が後ろからついてきた。まるでせかせかと私を追いかけるようだ。
十二月には師匠も走るとはよく言ったもので、私も日々の仕事に追われ、疲れ切った体を何とか持ち上げてトボトボと歩いていた。
今年も残すところあとわずか。冬が近づくと夜の帳が落ちるのが早くなるのは、冬の気持ちも焦っているからだろうか。
次第に冬は私に追いついて、横に並ぶと私に合わせてペースを落とす。走り疲れたのか、木枯らしに落ち葉が舞うように、どっちつかずのとぼとぼとした足取り。
辺りの空気が冷たくなって、私は思わず体をぎゅっと丸くする。
吸い込んだ息が肺の内側にしんと薄い氷を張り、心に薄っすらと霜を降ろしていく。無意識に吐き出す息が揺らいで、白く空に消えていく。
冬は次第に呼吸を整えて、一定のリズムを取り戻す。
私より少し早いペースで、ついてきてとでも言わんばかりに着かず離れずの距離を保つ。
街を見渡せば、自動販売機には『あったか〜い』の表示が並ぶようになり、コンビニの店頭には中華まんやおでんがホカホカと湯気を立てる。
かじかむ手に、はぁ……と息を吐きかける。
もっと冷えていると思った体の内側から出てくるのは、思いのほか温かい空気。呼気に湿った両手を擦り合わせると、手のひらがじんわりと熱をまとう。
私は少し前を歩く冬に合わせて、少し歩幅を大きくしてみた。すたすたと歩く冬に並ぶと、わずかに息も上がり、体もぽかぽかと温まってくる。
徐々に薄暗くなる街に、クリスマスのイルミネーションがチカチカと灯り、流れてくるキャロルの音色に心が躍る。
心なしか隣を歩く冬の足取りも、楽しげにリズムを刻んでいる。
今年もあとわずか。やり残したことはないだろうか。
年始に立てた目標を思い返しながら、あれはできた、これはまだだ――と思いを巡らせる。
四週間あれば、まだやれることもいくつかあった。
その中から、一番簡単に手を付けられそうで、なおかつ楽しそうなものを選んで、心に留める。
いつしか、冬よりも速いペースで歩いていた。
胸を張ってずんずんと、冬の少し前を歩く。
今年はまだ終わらない。
多分明日からも忙しない日々は続くだろう。
視界が狭くなって、自分の内側ばかりを見てしまうと、どうしても気持ちは沈んでくる。
そんな時には一度あたりを見回して、ちょっとした変化を探してみるのもいいだろう。
季節の移ろいは、いつも私たちの隣を歩いている。
まだ冬は始まったばかり。
深まっていく冬の隣をてくてくと歩きながら、時に追い越し、時に追い抜かれを繰り返していく。
やがて春を迎えるその時には、きっとその切磋琢磨が新しいスタートと出会いにつながるはずだ。
期待に胸を弾ませて、冬と一緒に前へ前へと進み続ける。
#冬の足音
12/5/2025, 7:55:46 AM