🌲「靴紐がほどけた日」
「ねえ、登山ってさ、靴紐が命取りになるって知ってた?」
そう言ったのは、大学の登山サークルにいた先輩だった。
その年、私たちは標高の低い初心者向けの山に登る予定だった。天気も良く、空気も澄んでいて、何も問題はないはずだった。
ただ、登り始めて30分ほど経った頃、後ろを歩いていた友達の足音が突然止まった。
振り返ると、彼女は地面に座り込んで、靴紐を結び直していた。
「またほどけた…さっきちゃんと結んだのに」
そう言いながら、少し苛立った様子だった。
その後も、彼女の靴紐は何度もほどけた。
結び直しても、歩き出すとすぐに緩む。
「なんか変だな…」と笑っていたけど、だんだん顔が青ざめていった。
そして、五合目に差し掛かった頃。
彼女が急に叫んだ。
「引っかかった!助けて!」
靴紐が木の根に絡まり、足が動かせなくなっていた。
私たちが駆け寄る間に、彼女の体はバランスを崩し――
斜面に向かって、頭から落ちていった。
落下は短かった。でも、木の枝に靴紐が引っかかっていた。
彼女の体は、靴紐で首を吊るような形になっていた。
誰も、どうしてそんなことになったのか説明できなかった。
靴紐は、まるで“自分で締めた”ように、枝に巻きついていた。
しかも、結び目は――蝶結びじゃなかった。
“縦結び”だった。
誰も教えていない、彼女が使ったことのない結び方。
それ以来、私は登山の前に必ず靴紐を確認する。
ほどけないように、絶対に。
だって、あの日からずっと――
靴紐を結ぶ音が、夜になると聞こえるんだ。
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今日はなんとなく書いたんで笑
9/17/2025, 12:27:10 PM