猫宮さと

Open App

《形の無いもの》

人の心は、手に取れるものではない。
その時の都合によって、コロコロと形が変わる。
ううん、変えざるを得ない。
与えられた衝撃に耐えるため。それぞれの場の型に嵌まるため。

誰かはそれを協力的と言う。別の誰かはそれを素直と言う。
私は、それは弱さだといつしか気付いた。
周りに逆らう事が出来ず、自分の主張を表に出さず。
ただ険悪な空気に飲み込まれる事だけを恐れてた。

私がそんな自分の弱さ故の選択に打ちのめされていた時、相棒に喚ばれてその心に住まう事になった。
その相棒との旅の最中、あなたが目の前に現れた。

飛ぶ鳥達を見つめる優しい目。
見知らぬ旅人である相棒達にも、丁寧な挨拶に暖かい心遣い。
周りの空気を壊さないような、慎重な立ち居振る舞い。
私の弱い所と似ている。そうも取れるのだろうけど。
私には、何故かあなたが弱い人には見えなかった。

他国を制圧しようとしている帝国から来たと、あなたは言ったけれど。
ましてやそんな国に染められた悪い人になんか、到底見えなかった。

それもそのはず。
あなたのその優しさは、私のような弱さから来るものではなかったから。
心に根ざすは、硬く真っ直ぐな正義という信念。
その真っ直ぐな幹からは分け隔てない優しさの枝が伸び、弱い者を守る慈しみの葉が生い茂っていた。

心には形がないと思い込んでいた私には、あなたの心の大樹がとても尊いものに見えた。

その時、私の心にあなたの大樹から実が一粒落ちてきて。
旅の最中であなたの心に触れ続けて、殻を破いて小さな芽を出した。

今その芽は私の中で大きく育ち、形の無かった私の心にしっかりとした根を張っている。
私の想いはここにあるよと、あなたの心の風を受け葉をそよがせている。

9/25/2024, 4:51:15 AM