ーーーー私の宝物が入った鍵をこの書斎に隠したわ。探してご覧なさい。
遺言らしからぬ言葉を残して亡くなった母の『宝物』は未だに見つかっていない。
仕事を終え、母の離れへ向かう。本好きの母が父の反対を押し切って建てた本邸の角に建てられた書斎は、図書館といって差し支えないほどに国中のありとあらゆる書物が揃っている。田畑以外何もない田舎の村であったこの書斎は村人の憩いの場であり、母が生きていた頃は読書会や朗読会で賑やかだったこの場所は今では閑古鳥が鳴いている。母がいなくなったということと、もうひとつは。
チッ、と内心舌を打つ。普段、立ち寄りもしないくせに。
ドアノブを回して書斎に入った瞬間、目の前に飛び込んできたのは、床に散乱した本の山。引き抜きに失敗したというよりも適当に引き抜いて床に落としたのだ。聖域とも呼べる空間をぶち壊した光景にカッと頭に血が昇る。母と負けず劣らず本好きの僕には堪えきれない光景だ。
「おい、あのバカが遺した『魔道書』はどこに隠した?!」
「知らないよ」
知っていたとしても、おまえなんかに教えるものか。僕は叔父が落とした本を拾い、痛んでいないことに安堵する。
叔父さんは、はっ、と小馬鹿にしたように笑う。
「そんな古びた何もない本に執着するなんて、本当に姉そっくりだな。まぁ、よい。明日、この本はすべて引き払う」
「母さんの本だぞ!?」
「今は俺のものだ」
「ふざけるな!」
叔父さんに掴みかかろうとした僕は呆気なく床に転がされた。殴られた左頬がズキズキと痛み、口の中は血の味がする。
「ガキが大人に逆らうんじゃない!」
吐き捨てるように出ていった叔父さんに背を向けた僕は膝をついて本を抱えたまま涙を溢す。
何もできない無力な自分がいやだった。
ーーーー助けてあげようか?
声がする。少年のような、僕よりも幼い子供の声。
僕は声に導かれるように、声がしたその本を手に取った。
11/24/2025, 2:00:40 PM