おくりびと

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《君と飛び立つ》
二人で遠いどこかへ行こう。
俺たちのことを誰も知らないところへ。




その目を見た瞬間に悟った。
これは駄目だ。
彼はもう限界だ。
と。
彼は優秀な子供だった。
優秀すぎた。
彼の周りの大人は、彼自身は見ない。
彼の才能を見る。
彼の両親が亡くなった時。
大勢の人が最初にとった確認は、「彼の頭脳に異常はないか」だった。
彼の両親の葬式の参列者のほとんどは、下心しかなかった。
本当に両親を悼んでいる者など、本当に少なかった。
彼は、精神は普通の子供だった。
ただ、研究で鍛え抜かれた忍耐力だけは卓越していた。
彼はその忍耐力でずっと我慢した。
どれだけ自分が貶められても、家族が出来損ないと呼ばれようとも、周りの人間に裏切られようとも。
彼はずっと耐えていた。
そして、とうとう限界が来てしまったらしい。
彼の目はもう少しで何かの糸が切れて伽藍堂になりそうだった。
彼の元を今訪れた自分を褒め讃えたいくらいだった。
彼に手を差し伸べた。
「お疲れ様、君はもう充分やったよ」
彼にはもうその手を重ねる気力すら残っていなかった。
でも、その目を放って置くことは出来なくて。
彼を彼の入っていた鳥籠から盗み出した。

8/21/2025, 12:21:08 PM