【酸素】
旧友たる彼女が姿を消した。女神の加護するこの都の町娘の一人で、唯一何の能力も持ち合わせぬ少女だった。
陽気で無邪気な彼女はそれを気にすることもなくいつも笑っていて、仲介者のような存在だった。
しかし能力を持たぬ者を皆は煙たがっていた。
「元気してる?」
いつもそう問いかけて明るく接してくれる彼女に答えられなくなっていて、それをずっと謝りたかった。
しかし彼女を見つけることはできなかった。
数ヵ月後、町の外れの小さな教会で床に伏す彼女を見つけた。
何も言えない私に彼女は笑い掛けた。
私はいつの間にか溢れていた涙を止められなかった。
彼女の方が苦しいはずなのに、私はうまく酸素を取り込むことができなかった。
「俺は、ずっと、君に」
謝りたいなどという傲慢を口に出せなかった。
しかし彼女は私の手を取って微笑んだ。
「ふふ、元気してた?」
私はその瞬間何も言えなくなってしまった。
長い時間を掛けてようやく捻り出した言葉は加護ではどうにもならない、どうしようもない願いだった。
「死なないで」
5/14/2025, 11:22:26 AM