バイバイ、
バイバイ、と手を振って見送った母は帰ってこなかった。バイバイまたね、と手を振りあった親友との間にはもうどうしようもないほど深い溝ができてしまった。
だから手を振るのは好きじゃない。愛想よく笑えとは言わないけれど、手を振るくらいはできるだろうがと人のことを言えないくらいに愛想のない不機嫌面でのたまう目の前の男にそうぼやくと、バコンと頭を叩かれた。
なんて女々しくバカバカしい、子供じみた屁理屈だろう。自分でも自分の間抜けさにうんざりする。自分でだって自分の湿度の高さに辟易するというのに、目の前のこの竹を割った様な性質の男にとっては耐え難い土砂降りレベルの発言だったろう。力いっぱい叩かれた頭を擦りつつも腹部への追撃に備えて腹に力を入れるけれど、追撃の代わりに振ってきたのは心底呆れ返った様な声色の言葉だった。
「お前との間にバイバイしたからって崩れる様な関係性ないだろうが、バカ」
「……それでも、君が死んだらさみしいよ」
「じゃあお前が先に死ねばいいだろ」
腹の力を抜いて、目の前の男の目を見つめる。初めて会った時からずっと馬が合わず喧嘩ばかりしてきたこの男の真っ直ぐな目と目を合わせるのがずっと苦手だったけれどよくよく見るととてもキレイな目をしていた。
空色の瞳の中に、曇天みたいな顔をした俺が映っている。確かに、俺が死ねばいいのか、とつぶやくと空色がわかりやすく不機嫌に歪んだ。
「お前が死んだら俺が嫌な気持ちになるだろうが!」
「でも君は俺のことが嫌いだろう」
「勝手に死なれたら、嫌えなくなるだろ」
とんでもない屁理屈に思わず笑いが漏れる。じゃあ、君に嫌われ続けるためにも生きなきゃね。と伝えたところでアラームがなった。
苦手だったこの男と、もう少しだけ話をしてみたいと思った。またいつか会えたら、その時はもう少しだけ目を見て話がしたい。そう思えたら自然と手を振ってしまっていた。
空色の瞳を瞬かせて、男はにやっとしながら手をふりかえしてくれた。
「バイバイ、またね」
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♥が1000いきました
普段、他人の目があるところに創作物をあげないので、こうやって目に見える反応がいただけるのが嬉しいです
ありがとうございます<3
2/1/2025, 3:07:48 PM