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通り雨

 鼻頭に水滴の気配を感じ、それを拭っていると一気に雨が降ってきた。それほど強くは無いが、弱くもない。向こうの方は明るいから、きっと通り雨だろう。急いで折りたたみの傘を広げる。
 昔、通り雨は魔法だと信じて疑わなかった時期がある。どこかの魔法使いがほうきに乗るのを嫌がって、代わりに雨雲に乗って移動している。だから誰も知らない雨は魔法で、その魔法にあやかれる偶然を傘で遮るのはもったいないと、たとえ傘を持っていても差さなかった。結局、風邪を引いたら困るからと何度も諭され、私は傘を差すようなった。そのうち、魔法のことなど忘れてしまった。
 思い出したのは、信号待ちをしている少年が傘を差していなかったからだ。雨粒を払う素振りもなければ、視界が滲む雨に顔をしかめる様子もない。彼こそきっと、雨の魔法とそれを操る魔法使いに祝福されているのだろう。幼い私と同じだ。
 雨足はだんだん弱まってきた。そろそろ上がる頃だ。

9/27/2022, 12:38:54 PM