藍間

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 最後の桜が散った。
 もうこの木は死にかけている。そう樹医に言われていた桜が開花してから丸一年。まるで時が止まったかのように咲き続けていた花が、昨夜の嵐に耐えかねて散った。
 きっともうこの木で花が咲くことはないだろうと、今朝方木を見た樹医は告げる。
 だが本当にそうだろうか。
 散った花びらが浮く川面を見つめながら、私は思う。最後の一本となったこの木が、そう簡単に死ぬのだろうか。この塵にまみれた世界で悠然と立つこの木が、そう簡単に命を終えるのか。ろくに日も差さぬこの世界で生き残った樹木なのだ。
 人間などよりよほど強いのではないか。私なんかよりはきっと、この木は長生きするだろう。
「競争だな」
 桜色の川を眺めながら私は笑う。
 私はきっと来年もこの桜を見る。そしてあの樹医に言ってやるのだ。藪医者め、と。

4/17/2023, 1:05:28 PM