47やりたいこと
激辛レベルが50あるカレー屋にはまり、1から50まで1ずつ刻んで食べている。御年70近いと思われる、魔術師のようなインド出身のシェフが秘蔵の激辛スパイスを1から50倍まで振り入れ、辛さを調整するらしい。「飛び級」は禁止なので、あくまで順番に、だ。
10までは、辛さと旨さがよく引き立てあっていた。
20までは、辛さの奥にある旨さを探りあてるように食べていた
30までは、ただ辛かった。
40までは、ただ死ぬほど辛かった。
45から、俺の周囲に野次馬があつまるようになった。
49までは、全身から汗と涙と鼻水を吹き出させつつ食べた。完食すると拍手が巻き起こった。
そして今日。
悲願である50達成の日だ。
体のコンディションは整えた。野次馬も集まった。
さあ、俺のために50辛を出してくれ。
そう思って注文したのに、若いシェフの返事は無情だった。
「激辛担当のシェフ、昨日で辞めてインド帰ったよ。体きついって」
そんな!!!!!!
あのシェフの秘蔵のスパイスでないと、あの辛さは出せないのに!!
俺は絶望した。
しかし事情が事情だ、仕方ない。
俺はかつて頼んだことの無い、お子さま向けの甘口を食べることにした。最後の挑戦ができないなら最初の、さらにその手前に戻るのもオツだと思ったからだ。
甘い。
野菜と果物とはちみつの、心に染み入るような奥深い甘さだった。
激辛に慣れきった体に、その甘さは優しく溶けていく。
うまい。俺は泣いていた。優しさと美味しさに、泣いていた。気付けは野次馬も泣いていた。みんなが子供のように泣いて、激辛チャレンジは幕を閉じたのだった。
6/11/2023, 6:49:30 AM