「困るんだよね、止まってもらわないと」
「すいません……」
僕は今、お巡りさんに怒られていた。
理由は、一時停止をしなかったから。
普段人通りのない交差点を愛車で突っ切ろうとしたのが運の尽き、見事お巡りさんに止められてしまった。
でも、僕にだって言い分はある。
止まれない理由があるのだ。
「僕『時間』なんですよ。
止まれないんです。
もし、止まったら他の人に迷惑がかかっちゃう」
そう、僕は『時間』。
みんなのために動く続けなければいけない。
もし止まろうものなら、立ちどころに人間社会がパニックになってしまう。
だから僕は止まれない、止まるわけにはいかないのだ。
「分かるよ。
私も、いや私たちは君に感謝している。
でもね、一時停止は止まってもらわないと困るんだ。
ほら、事故の元だし」
けれど、お巡りさんは見逃してくれそうになかった。
なんて融通が利かない人なんだ。
法律よりも大事なものだってあるだろうに。
「あーそういえば……
きみについて、ある目撃情報を寄せられていてね」
「なんでしょう?」
「君、速度オーバーしたでしょ?
時間の流れが速いって、通報があったんだ」
「ギクウ」
胃がきゅーっと締め付けられるのを感じる
まさか見られていたとは……
誰もいないからと思って油断していた。
「も、もしかして免許取り消し……?」
「うーん。
取り締まるには、目撃情報だけじゃ弱いからね。
今回は厳重注意」
「ありがとうございます」
「感謝しないで。
許したわけじゃない。
『確実な証拠がない』だけだからね」
「はーい」
「緊張感がないなあ……
言っとくけど、証拠があったら捕まえているからね。
すぐに」
「はい……」
そうしてお巡りさんは、言うことを言って去っていく。
それを僕は見送って――
「よっしゃあ、これで自由だぜ」
よし!
これで僕を止める人間はいない。
愛車に乗り込み、アクセルを踏む
いざ行かん、光の先へ――
だがその瞬間、車の前に白い影が飛び出す。
「猫!?」
その時、時間は止まった。
だが時間が止まったことも知らず、猫はそのまま道を渡る。
猫は時間になど興味は無いのだ。
一方僕の頭に浮かぶのは、さっき止まってしまった事。
急に止まってしまったので、つまり時間が止まったことで人間社会ではいろんなトラブルが起こったに違いない。
電車の運行、陸上競技の記録、カップルの待ち合わせ、その他とんでもない事になっただろう。
僕は人類に起こった惨状を思い浮かべて……
「知ーらないっと」
僕は気づかない振りをして、安全運転で道を進むのであった。
9/20/2024, 3:51:52 PM