『真昼の夢』
カフェでコーヒーを飲もうと持ち上げた瞬間、隣の人もコーヒーを持ち上げた。
気にせず一口飲み、テーブルにカップを置くとそれも同時。
あ、タイミング一緒になっちゃった。
誰も気にしないようなことに若干の気まずさを覚えながら、本を読むふりをしてちらりと隣の人を見る。
両肘をテーブルにつけながらスマホを見ている。大学生というにはもう少し大人っぽい、ラフな格好の男の人だった。
彼は、私が盗み見していることにもまるで気がつかない様子で、もう一度カップに手を伸ばそうとした。ように見えた。
ところがその瞬間、テーブルについていた右肘がカップにぶつかり、私の方にカップが落ちてきた。
え?うわヤダ、コーヒーかかる…!
と目をつぶって覚悟したのも束の間、気付くと彼のコーヒーは変わらずそのままテーブルにあった。
彼も両肘をついてスマホを見たまま動いていない。
あれ?気のせい?落ちたと思ったのに。
私、夢でも見てた?
軽く混乱していると、彼がさっき見たのとまったく同じようにカップを取ろうとした。また右肘がカップにぶつかる。
うわ、やっぱり落ちるんだ…!
ところが、さっきは絶対にカップがテーブルから落ちたはずだったのに、今回はガチャンと音はしたもののテーブルの上でカップが耐えている。
彼は一瞬驚いて固まっていたものの、倒さなかったコーヒーにはすぐに興味を失い、視線をスマホに戻している。
私はさらに混乱する。
びっくりした。なんだろう、デジャヴ?
それとも白昼夢?
考えたところで、今の出来事がなんだったのか、きっとこれからもわかることはないのだろう。
でももしかしたら、テーブルから落ちたコーヒーが私にかかったパラレルワールドのような未来が、本当はどこかにあるのかもしれない。
7/16/2025, 3:00:10 PM