遠くの空へ
「単刀直入に告げる。」
「お前の母親はな、呼吸器官の病気なんだよ。」
まだ5歳の子供に、こんなことを告げる日が来るとは全く思っていなかった。
第1子の長男に、病気という事実を理解するにはまだ早いだろう。
ただ、理解させないといけない。
先程、息子は興味本位で母親の人工呼吸器に触れた。抜くつもりはない手の動き、ちょんちょんと、いつも通り誰かを起こす仕草で。
それがもし、人工呼吸器が抜けてしまえば
あいつの命に関わることになる。
そして今、目の前で理解できない顔を見せている息子。自分は、今現在、腕に1歳のふっくらとした娘を抱えている。
実際、自分の妻、つまり母親は
呼吸器官系の病気を患い、もう長くは無いのだ。
今は病院で、人工呼吸器に繋がれて苦しそうに息をしているに違いがない。
そしてその一ヶ月後。
妻は、突然自分にぎゅーを求めた。
自分は妻の要望通り、上から覆いかぶさった。
「ん…ぅ、も、し。わたしが…死んだら」
「やめろ、そんなこと言うな」
「えへへ、大事にされてるのしあわせだね」
そう言って、眠そうな目をしながら妻は、自分の背中に手を回した。
その数秒後、突然背中に回っていたはずの手がずるりと、滑り落ちた。
「…………え」
彼女は、もう息をしていないのだ。
遠くの空へ、行くことになった。
4/12/2026, 3:39:01 PM