旅は続く
あの駅を出てからしばらく車窓の外に流れる美しい風景を眺めていたのに、真っ暗なトンネルに入ってから随分時間が経っている。長いトンネルで出口の光はまだ見えそうにもない。
窓を見てもそこに映るのは自分の顔だけ。窓に映った自分の顔は、よく知っているはずなのに、知らない顔のようにも思えた。こんな顔だったろうか僕は。あまり見たくなくて、仕方なく前の座席の背面を眺めていた。
……しかし、あまりにも長いトンネルだ。真っ暗な中にずっといると、移動してるのかどうかさえ分からなくなる。
本当はもうこの車輌は停車しているんじゃないか?
いったんそんな風に考えてしまえば、この心地よい揺れもガタゴトという車輌特有の音も、幻想のような気がしてくる。長い旅路のリズムが身体の奥でまだ鳴り続いているだけなんだろうか。もし本当に止まってしまったのだとしたら?
この旅はたどり着く先ではなく、移動そのものに意味がある。そう言ったのは駅で送り出してくれた人だったか。あの駅を出たのは随分前だから、何もかも朧気だった。
少し怖くもあったが、僕は意を決して席を立った。この車輌は本当に止まってしまったのか、長いトンネルの先に出口の光が見えるのか、僕自身の目で確かめるために……続く
9/30/2025, 10:14:01 PM