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『君に会いたくて』


「君に会いたくて、地球を一周してきたんだ」

 それは一聴するとロマンチックにも聞こえるが、本当に会いたい人ならば、わざわざ地球を一周してくる必要なんてない。
 むしろそれは会いたくない人にする行為だ。

 などと考えながら、この両手にいっぱいの花束を持った男に、私は少しばかり軽蔑の眼差しを送る。
 男の格好はあまりにもみすぼらしく、それこそ会いたい人にするべき格好ではなかったからだ。

 手入れされず無造作に伸びた髭に、不潔な長髪。
 黒のTシャツ?は泥まみれにボロボロで、同じく黒のズボンなんか両膝のうえで破れて短パンになってしまっている。
 靴もひどい。かろうじて革靴だが、どれだけ使い潰したのか汚れと傷で傷みきっている。
 よく見ると、男の格好はタキシードの一張羅だった。

 その瞬間、私の脳裏にとんでもない考えが過ぎる。
 もしかしてこの男、本当に地球を一周してきたのか?

 それを裏付けるように彼の胸ポッケからは海藻がはみ出す。
 まさか船も使わず、ここまで泳いで渡ってきたというのか。

「ああ、これかい?」

 私の視線に気づいたのか、男は恥ずかしそうに胸ポッケから海藻を取り出した。

「泳いでる途中、キミに似合うと思って取っておいたんだ」

 そう言って男は花束を私に預けた。
 そしてその海藻を広げて輪を作ると、それをまるで花冠のように私の頭に被せてくれたのだ。


 

1/19/2026, 10:50:55 AM