モノクロ
恋をすると、世界に色がつくとは言い得て妙だと思う。本当にその通りなのだ。
僕は、物心ついた時から……いや、物心つく前から、変な子だったらしい。ほとんど夜泣きをせず、イヤイヤ期もほとんどなく、幼稚園では自由時間はほとんどひとりでいたらしい。
手がかからなくてよかった、と母は冗談めかして言うが、自分の在り方を知った今となっては、そんな幼少期から人生を諦めていたのかと悲しく思えた。
僕は、男性にしか惹かれない。
けれどそこに、好きという感情以上のものはない。その先に望むものがない。
相手によるのかとも思い様々なタイプの人と付き合ってみたが、誰に対しても何の欲も湧かなかった。相手に求められて初めて、あ、もうその段階に進むべき時期なんだ、と他人事のように考えた。
そんな初心な乙女みたいな態度が許されたのは、二十代の始めまで。アラサーに片足を突っ込みつつある今では、もう痛い。
だから、僕は僕の幸せは諦めた。僕の周りには幸せになってほしい人が多すぎる。
美園くんや、奏志、弟の純だ。
みんな不器用で不格好ながら必死に生きていて、自分の在り方を理解し、めいいっぱい地に足をつけて生きている。
みんなの人生相談を聞きながら、特にこの三人が笑っていてくれることに幸せを感じていた。
それは、嘘ではない。
「ーー今、なんて?」
「君のことが好きなんだ! 付き合ってください!」
数年前にゲイバーで知り合い、以来僕に彼氏がいない時期に度々二人だけで飲みに行くようにもなった邑田に突然、二人きりのゲイバー店内で告白された。気をきかせたのか、ボーイが距離をとった。
お互いに深くは知らない。下の名前すらも知らない。けれど邑田は、なんとなく話しやすいおっとりした雰囲気があったから、これまで何度も恋愛相談をしていた。だから、邑田は僕のことを知っているはずなのに。
「……なんで? なんで僕なの」
「僕が、木村のことを幸せにしたいと思ったから」
上手く言えないけど、と邑田は言った。
彼に手を掴まれて初めて、自分を包み込んでくれる温もりを知った。
その瞬間、邑田に色がついて見えた。
いや、今までも邑田の個性的なインナーカラーや、派手な柄の服の色は見えていた。街の信号機も看板も問題なく見える。判別出来る。でも違う、そういうことじゃない。
僕の今までの世界が味気ないモノクロだったと徐々に気付いたのは、彼を通じて、彼が見ていた世界を知ってからだ。
「……僕ってさー、結構めんどくさいタイプだと思うんだよ」
「知ってるよ。ずっと見てたからね」
離れたところにいるボーイがキラキラした目でこちらを見ていた。
9/29/2025, 10:18:24 PM