琥珀

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「三日月」

 ある国には、三日月の夜、欠けた月を取り戻すために人が攫われるという古い伝説があった。そのため人々は月の満ち欠けを恐れ、夜空を見上げることを避けて生きていた。

 しかし王子だけは、その国の空に浮かぶ月の美しさを知っていた。人々に隠れて毎晩月を眺めていた。ある晩、満ちていた月が銀の雫となって湖へ落ちる光景を目にした王子は、その美しさに導かれるように湖へ向かい、その雫から生まれた小舟に乗った。月光の下で彼が出会ったのは、冷たく、儚い輝きをまとった美しい少女だった。

 少女は王子に、月は人々の心に秘めた願いや想いによって満ち、人々がそれらを忘れ、諦めてしまうと欠けていくのだと語った。そして月が完全に欠けぬよう、彼女はたびたび地上へ降り、人々の中に眠るかつての願いを呼び起こしてきたと告げるのだった。

 しかし人の欲望や願いは尽きることなく膨らみ続け、一つひとつを大切にしないその傲慢さに、月の少女は次第に悲嘆するようになった。やがて彼女は、地上に降りては人々の願いを奪い取り、忘れさせてしまう存在へと変わってしまったのだ。

 それからというもの、この国では満ちた月がみられることはなかった。月を愛した王子に満月を見せられなくなった少女が悲しみ、流した涙で月は欠け続けていくのだった。
 

1/9/2026, 3:27:35 PM