いろ

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【七夕】

 商店街の片隅に置かれた笹に、いくつもの短冊が揺れている。半月の照らす夜の入り、子供たちが嬉々として書いたらしいそれを街灯の明かりを頼りに眺めていれば、不意に見覚えのある筆跡が目に留まった。
 世界中の人が幸福でありますように――あまりにも子供じみた拙い願い事が、やけに流麗で大人びた文字で記されている。幼い子供たちに混じって、高身長な君が背筋を丸めてこれを書いている姿を想像し、思わずふふっと笑い声が漏れた。
 まともな両親に恵まれず、親族にも男の子はちょっとと難色を示され、行政指導で強制的に施設へと収容された後のことは、君はほとんど話してくれない。だけど逃げるように施設を出たってことはたぶん、ロクな環境じゃなかったんだろう。誰よりも傷ついて、世界の汚さを知っているくせに、馬鹿正直にこんな願い事をする君はどうしようもなく愚かで、そして。
(眩しいなぁ)
 少しだけ滲んだ視界で、後ろを振り返る。焦ったような足音にはとうに気がついていた。
「ごめんっ、バスが遅れてっ……!」
「良いよ別に。たいして待ってないし」
 君の腕に自分の腕をそっと絡ませる。生まれた時は一緒だったのに、いつから私たちはこんなにも違う存在になってしまったんだろう。私だけを引き取って、君に会うことを生育に悪影響だからと禁止したおばさんたちのことも、私たちをこんな環境に産んだ世界そのもののことも、私はきっと一生許せないのに。
「行こう、お兄ちゃん」
 おばさんたちが実の娘の誕生会を開く今日だけは、私には自由が与えられる。年に一度、今日だけ会える優しすぎる双子の兄へと、私はなるべく明るく微笑みかけた。

7/7/2023, 11:26:11 PM