小説
迅嵐
「迅!起きろ!朝だ!」
聞こえてきたのは元旦に似合う明朗快活な声だった。
「ん゛~?ん~~…」
時刻を見ると午前6時。いつも起きる時間より少し早めの時間だった。任務があればそんな時間に起きるのは特段珍しいことでは無いのだが。
「…あらしやま…きょうがんたんだよ…まだねようよ…」
本日は1月1日。元旦。遅くまで寝ていても誰にも文句は言われない日。だとおれは勝手に思っている。だからもう少し寝ていたい訳で。
「何言ってるんだ。元旦と言えば初日の出。ほら起きろ、一緒に見よう」
そう言いベッドからズルズルおれを引き抜く嵐山。ああ、昨日の夜視えたこの大根抜きみたいな未来は日の出が見たいがための暴挙だったのか。ちなみにこの後はおれが渋々起き上がる未来が視える。
「…しょうがないなぁ…」
寝ぼけ眼を擦りながら渋々起き上がると、おれは一つ大きな欠伸をする。調べると大体1時間後に日の出が見られるようだった。
「こっから見えるかな」
「多分見える」
「神社に行っちゃうとおまえ、囲まれちゃうからな」
いつだったか神社へお参りに行った時、嵐山の変装が見破られて取り囲まれてしまったことがあった。その情景を思い出したのか、嵐山は遠い目をして笑う。
「あぁ…あれは大変だった…」
「はは、あの時の嵐山さ…」
思い出話に花を咲かせる。
いや、咲かせすぎた。
いつの間にか外は光で満ちていて、とっくに日は昇っていたのだった。
「あー!?迅!!日が昇ってる!!!」
「え!?うそ!!ほんとだ!!!?!」
「っっ見逃したーーーー!!!!」
「っっ視逃したーーーー!!!!」
どわー、だとかうわー、だとか変な声を出しながら二人仲良く撃沈する。せっかく朝早くに起きたのに。
「くそ…こんな未来視えなかった…新年早々何してんだおれ…」
「初日の出…見たかった…」
大の大人二人が部屋の中で新年早々うずくまる光景を誰が予想していただろうか。だがしかし、おれはあの実力派エリート迅悠一。切り替えはピカイチ(当社比)だ。
「…よし、ウジウジしてても仕方ない。過ぎたことは過ぎたこと。嵐山、切り替えるぞ、来年だ来年!」
「あぁ、そうだな。来年に期待だ!」
少々涙を目に溜めながらも、流石はA級部隊隊長。胸元で力強く拳を作る。
そうしておれたちは来年へのリベンジマッチを胸に、新年の朝を迎えたのだった。
1/3/2025, 3:00:36 PM